おせちは喪中に食べてよいの? おせちの代わりになる料理も紹介
おせちは喪中に食べてよいの?
おせちの代わりになる料理も紹介

お正月は、日本人の生活において特別な節目です。家族が集まり伝統的なおせち料理を囲む時間は、今も多くの家庭で欠かせないお正月の一コマとなっています。しかし、身近な方が亡くなり喪中の期間にあたる場合、「おせちは食べてもいいのだろうか?」と悩む方も少なくありません。
この記事では、喪中と忌中の違いや宗派ごとの考え方を整理したうえで、喪中におせちを食べる際の注意点や、代わりになる料理について詳しくご紹介します。故人をしのびつつ新しい年を心穏やかに迎えるための参考にしてください。
そもそも喪中とは
喪中の習慣は、現代においても年賀状のやり取りや慶事への参加を控える目安として、広く受け継がれています。その具体的な意味や忌中との違いをご紹介します。
1. 喪中の意味
喪中(もちゅう)とは、親族が亡くなった際に、一定の期間、慶事や祝い事を控える習慣を指します。身近な人を亡くしたとき、大きな悲しみの中に身を置きながら故人を悼む、大切な時間です。
喪中の期間は、一般的には一周忌が終わるまでの約1年間が目安とされますが、法律で定められているわけではなく、地域や家庭の慣習によって異なる場合があります。社会的に喪に服すことを示す意味も持つため、この期間中は年賀状の送付や結婚式への出席などは控えるのが一般的です。
喪中にあたる範囲は、主に二親等以内の親族です。
- 0親等:配偶者
- 1親等:両親(義理の両親を含む)、子ども
- 2親等:兄弟姉妹(義理の兄妹を含む)、祖父母、孫
なお、三親等(曾祖父母、おじ・おば、甥、姪)は形式的には喪中の範囲に含まないこともありますが、故人との関係性によっては喪中として扱われる場合もあります。
2. 忌中との違い
忌中(きちゅう)とは、故人が亡くなった日を1日目とし、四十九日法要(仏教の場合)、または五十日祭(神道の場合)が終わるまでの期間を指します。この間は「穢(けが)れ」の状態にあると考えられ、神社への参拝や祝い事への参加は避けるべきとされてきました。
喪中は、忌中に続く期間にあたるものです。忌中が「特に厳しく慎むべき時期」であるのに対し、喪中は「祝い事を控えつつ徐々に日常生活を取り戻す時期」と整理できます。現代では忌中であっても日常生活そのものを制限することは少なくなりましたが、結婚式への参加、神社参拝などは依然として控えるのが望ましいとされています。
おせちは喪中に食べていいの?

おせち料理は、新年を祝う特別な料理として古くから親しまれてきました。鯛や海老、紅白かまぼこといった縁起物の食材が使われ、重箱に美しく詰められることで、新しい年をめでたく迎える意味が込められています。そのため、お祝いごとを控えて故人を偲ぶ期間である喪中、特に忌中においては、おせちを口にしない方がよいとされています。
仏教の宗派ごとに考えが異なる
ただし、喪中におけるおせちの扱いは、仏教の宗派によって異なります。多くの宗派では喪中に祝いの意味を持つおせちを食べることは控えるべきとされ、故人を偲び慎ましく過ごすことが重視されます。これは、新年の祝いが喪中の精神にそぐわないと考えられるためです。
一方、浄土真宗では、喪中におせちを控える習慣は必ずしも義務とされてはいません。また、仏教以外の宗教、たとえばキリスト教では喪中の概念自体が存在しないため、宗教上の制約はありません。
したがって、喪中におせちを用意するかどうかは、自身が信仰する宗教・宗派の教えに従って判断することが望ましいでしょう。そのうえで、故人への敬意を踏まえた形で新年を迎えることが重要です。
おせちを喪中に食べるときの注意点
喪中でも「やはり新年らしい食卓にしたい」と考える方はいらっしゃるでしょう。その場合は、以下のような工夫をすることで、祝いの雰囲気を抑えつつ落ち着いた正月を迎えられます。
1. 少ない人数で食べる
喪中におせちを食べる場合は、できるだけ家族だけなど少人数で食卓を囲むことが望ましいとされています。大勢で集まり賑やかに過ごすと、新年のお祝いの雰囲気が強く出てしまい、喪中の慎ましさにそぐわないためです。家族だけで落ち着いた時間を過ごすことで、祝い事の印象を抑えつつ故人を偲ぶ気持ちを大切にすることができます。
2. 重箱ではなくお皿を使う
おせちは通常、重箱に詰めて用意されます。重箱には「福を重ねる」「めでたいことが重なる」という意味が込められていますが、喪中に重箱を使うと、その意味が逆に「悲しいことが重なる」と解釈されることから、控えるのが一般的です。
喪中におせちを用意する場合は、重箱ではなく普段使いの皿や容器に盛り付けるようにしましょう。また、祝い事で使われる祝箸も避けます。割り箸や普段使いの箸を使うことで、食卓の雰囲気を控えめに保つことができます。
3. 縁起物の食材を使わない
おせち料理には、新年を祝う意味を持つ縁起物の食材が多く含まれています。鯛や海老、紅白のかまぼこなどは、祝い事を象徴するものです。喪中におせちを用意する場合は、こうした縁起物は避けるのが望ましいとされています。
一方、五穀豊穣を願う田作りや学問成就を祈願する伊達巻きなど、特定の祝いの意味合いが強くない料理は、普段の食事として楽しむ分には問題ありません。
4. 金箔を使った料理は避ける
金箔や金色の飾りは、古くからおめでたさや豊かさの象徴とされてきました。そのため、デパートなどで販売されるおせち料理には金箔が多く用いられている場合があります。
しかし、喪中は故人を悼み悲しみを表す期間であるため、華やかな印象を与える金箔や金色の飾りはふさわしくありません。
5. お酒を飲むのは夜だけにする
お正月には、縁起の良いお酒として御屠蘇(おとそ)を元日の朝に飲む習慣があります。しかし、喪中は祝い事を控える期間であるため、元日の朝にお屠蘇を飲むことは控えるのが望ましいとされています。お屠蘇はおめでたい意味を持つお酒であり、喪中に朝から飲むと祝いの印象が強まってしまうためです。
し一方、お酒には、邪気を祓う神聖なものという意味もあります。そのため、喪中のお正月にお酒を楽しむ場合は、日没後、夜に飲むのが適しています。夜に飲むことで、祝いの意味ではなく神聖な行為として位置づけることができます。
喪中に食べないほうがよい縁起物

ご紹介した通り、喪中におせちを用意する際は、祝いの意味を持つ縁起物の食材を避けることが大切です。ここでは、喪中には控えたほうがよいおせちの食材をいくつか取り上げ、具体的にご紹介します。
1. 紅白のもの
紅白の組み合わせは、古くからお祝いを象徴する配色とされています。結婚式やお正月など祝いの席でよく用いられることから、喪中のおせちには適していません。
具体的には、かまぼこであれば紅白かまぼこではなく白一色のかまぼこを選ぶとよいでしょう。また、なますも紅白ではなく単色のものを用いるなど、色合いを工夫することで祝いの印象を抑えることができます。
2. 鯛
鯛は、その赤い色や「めでたい」との語呂合わせから、古くからお祝い事の象徴とされてきました。そのため、喪中のおせちには適していません。他の魚を使うなどして祝いの印象を抑えることが大切です。
3. 伊勢海老
伊勢海老は、背中が丸く曲がり長いひげを持つことから、「腰が曲がるまで長生きする」といった長寿の象徴とされており、喪中には適していません。おせちを用意する際は控えたほうがよいでしょう。
4. 昆布
昆布は、語呂合わせや漢字の意味から、喜びや子孫繁栄を象徴する食材とされています。昆布巻きの「こぶ」は「喜ぶ」と読み替えられますし、漢字では「子生婦」とも書かれることもあり、子孫繁栄の願いが込められています。さらに「養老昆布」といった名称には不老長寿の意味も含まれています。
こうした背景から、昆布や昆布を使った料理は喪中のおせちにはふさわしくありません。
5. 飾り切りしたもの
おせち料理では、食材の切り方や形にも祝いの意味が込められることがあります。松竹梅を模した飾り包丁や、結びこんにゃく(手綱こんにゃく)、梅花にんじん、菊花かぶなどは、縁起やおめでたさを象徴する飾り切りです。結びこんにゃくはその結び目が良縁やつながりを表し、梅花にんじんや菊花かぶはその華やかで祝いの印象を強めます。
喪中におせちを用意する際は、このようなお祝いを象徴する飾り切りは避けるようにしましょう。食材そのものだけでなく、切り方や盛り付け方にも配慮することで、慎ましく故人を偲ぶ食卓を整えることができます。
喪中におせちの代わりになる料理
おせちを用意しなくても、年末年始らしい食卓を楽しむことはできます。以下では、喪中におせちの代わりとして取り入れやすい料理をご紹介します。
1. お雑煮
お雑煮はかつてお祝いの日に食べられてきた料理ですが、現在では一般的なお正月料理として定着しています。お雑煮そのものに強いお祝いの意味はなく、喪中でも食べることができます。
ただし、具材の選び方には注意が必要です。紅白のかまぼこや伊勢海老、昆布、飾り切りのにんじんなどを加えてしまうと、おめでたい料理としての要素が強まってしまいます。喪中にお雑煮を用意する際は、できるだけ控えめな具材を選び、華やかになりすぎないよう工夫しましょう。
2. 年越しそば
大晦日に食べる年越しそばには、「1年の厄を切り落とす」「新年を健やかに過ごせるように」といった意味があり、新年を祝う意味合いはありません。そのため、喪中でも食べて差し支えないとされています。ただし、紅白のかまぼこや飾り切りのにんじんなどの具材を加えるとお祝いの印象が強まってしまうため避けましょう。
また、地域や家庭によっては喪中に年越しそばを食べない習慣もあるため、心配な場合は家族や親戚に相談してみましょう。
3. 鯛以外のお刺身
お刺身には特別なお祝いの意味はないため、縁起物とされる鯛以外であれば喪中でも食べて問題ありません。お正月らしく、普段より少し良い魚を選んで楽しんでみてはいかがでしょうか。
4. すき焼き・しゃぶしゃぶ
かつて、忌中の間は肉や魚といった殺生に関わる食べ物は控えるべきとされていましたが、現代ではそうした風習は次第に薄れています。そのため、喪中のお正月にすき焼きやしゃぶしゃぶを食べること自体は問題ありません。
ただし、家族で楽しむ分には差し支えないとされますが、来客を招く場合には相手の考え方や慣習に配慮しましょう。
5. ふせち(喪中用のおせち)
現在では、喪中用のおせちとして、精進料理を中心にお祝いの食材を使わない「ふせち料理」という商品も販売されています。ふせち料理を利用すれば、形式的にはおせちを楽しみつつ、喪中の慎ましさを保ち、安心して新年を迎えられます。
喪中のおせちは避け、故人を想う穏やかなお正月を過ごそう
喪中の期間は、大切な家族を失った心の痛みを癒し、故人を静かに偲ぶ大切な時間です。お正月も、華やかなおせち料理を食卓に並べるのは避けるのが一般的とされています。
しかし、日々の暮らしを続けていく私たちにとって、お正月は大切な1年の節目でもあります。お祝いの意味を持つ食材を使わない「ふせち料理」を選ぶなど、亡くなった家族のことを思いながら新しい1年に想いを馳せる食卓にしましょう。